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Kami-Robo©2003-2014 Tomohiro Yasui / butterfly・stroke inc. All rights Reserved.
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Kami-Robo
行き止まりの先に広がる道

キャラクターが強く望んでいる方向に導いて解放してあげると、
そのキャラクターは息を吹き返したかのように生き生きとしてきます。

引退したマドロネックファイターや、
居酒屋の経営を始めたブルーキラー。
そして、個性的なレスラーを育成するナイトコブラなんかは
その最たるものと言えるでしょう。

まあ、そこまで目立たない存在でも、
例えばヒールターン(悪役に転身)したり、
他団体に移籍したり、ファイトスタイルを変えたりしながら
みんな、行き止まりの先に広がる自分の道を見つけて進んでいきます。

そんなふうに、紙で作ったロボットの生き様や
人生を空想する事がカミロボプロレスの神髄、
と言えるのではないでしょうか。

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Kami-Robo
自分の鏡

では、マドロネックサンが解放される方法とは何なのか。

僕は、耳を澄ましてカミロボの心の声を聞いて、
彼らが真に望んでいる方向に導いてやらなければならない。

そう考えた時、彼は「引退」では解放されない、と断言できるのだ。

ここで彼が引退するという事は、
それはただ単に彼が抱えた問題の本質から逃げ去る事でしかないからだ。

だから、マドロネックサンがそんなふうに弱気になっているのだとしたら、
僕は彼に喝を入れてやらなければならない。

…と言うか、正直に言うと、弱気になっていたのは僕自身だ。

僕がカミロボに対して遠慮してしまっていると言うか、
…いや、違うなぁ… ん〜… なんて言うのかなぁ…

「何の見返りも求めず、自分の楽しみのためだけに続けてきた一人遊び」を、
いつの間にか「他者を意識した表現活動」に
徐々に移行させていった僕自身の変化を… 見透かされてしまうのが怖い、
という事なのかもしれないな…

…いや、しかし… 変化していく自分も、変わらない本質も、
全てひっくるめてカミロボのはずだ…。
そうやって逡巡する感情の全てがカミロボのはずだ…

マドロネックサンについて思っている事を
ひとつひとつ正直に書いているうちに、
今の自分がやらなければならない事が明確になってきた。

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Kami-Robo
我々は一つ

…あぁ長かったな。いっぱい書いた…。

さて、長々と書いた後に、場面は再び
マドロネックファイターとマドロネックサンの話し合いの席に戻ります。

   ★     ★     ★

内面で沸き上がる怒りの正体を理解できた時、
マドロネックファイターは
自分の感情を一気にマドロネックサンにぶつけた。

引退は、お前がお前の人生の中で決断する事だ。
それについてはオレがとやかく言う問題じゃないだろう…。

しかし、マドロネックサンともあろうレスラーが
こんなふうにカミロボプロレスに背中を向けたまま
終わってしまって良いのか?!
カミロボプロレス界が分断されている状態を放置したまま
逃げ去ってしまって本当に良いのか?!

いいか、カミロボプロレスの歴史を
全部見てきたオレが言うんだから間違いない。

我々は一つだ。
この大会はここから未来へ繋がる第一歩になるんだ!」

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058
Kami-Robo
未来

しばらく沈黙していたマドロネックサンが静かに話し始めた。

「…ファイターさんの言う通りだと思うよ…」

そしてまた沈黙。

マドロネックファイターは答えを急かさず、
マドロネックサンが自然に話しはじめるのを待った。

そして再び口を開くマドロネックサン。

「…分かったよ」

そしてまた沈黙。

「分かったよ。だまされたと思って出てみるよ、その大会」

「…バードマンと… 手を組んでくれるのか…」

「…いや、それは無いだろうな」

「…?」

やるんなら、バードマンとは戦った方が良いだろうよ。
戦った方が…未来があるだろ?」
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Kami-Robo
爆弾

まさかの提案に驚くマドロネックファイター。

「バードマンとの…シングルマッチを望んでいるのか…?」

ファイターの質問には答えず、
マドロネックサンは背中を向けて歩き始めた。

動揺するマドロネックファイター。
その瞬間、マドロネックサンが振り返った。

シングルマッチも良いけどよ、
せっかくの記念試合だ。もう一つ爆弾落とさねェか?」

「…爆弾?」

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Kami-Robo
挑発
…ファイターさんよォ、
このマドロネックサンにここまで介入したにも関わらず、
当日リングサイドでふんぞり返って見てるだけだったら、悲しくねェか?

そんなんじゃ、伝説のレスラー
マドロネックファイターの名が廃るんじゃねェか?」

「どういう意味だ?」

…タッグマッチだ。
リングに上がって、アンタもアンタの本気を見せてみろよ、
マドロネックファイター」

「何?!」

「バードマン&マドロネックファイター組って… どうだい?」

「…復帰しろ、って事か…?」

30周年を記念して、一夜限りの復帰、だ。
そしてオレが組むのは… マドロネックキングはどうだ?」

「!」

「どうだい? いいカードだろ? 客、入るぜ…」

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Kami-Robo
第4の男

場面は変わってここはマドロネックキングの道場。

カミロボプロレスの創始者マドロネックファイターと
マドロネックキングが久々に対面し、
30周年記念大会の話し合いをしている。

なにぃ!! マドロネックサンが
師匠のオレをタッグパートナーに指名しただと!?
ふざけるんじゃねェぞ!! 何様のつもりだ! あの野郎!!」

「…分かった。 無理強いはしないよ… キング」

「いや! 俺が気に入らないのは話の順序だ!」

「順序?」

「要するに、逆ならばOKだ!」

「逆?」

師匠のオレが、弟子のマドロネックサンを
パートナーに指名した、という事ならばOKだ!」

「…フフ… 分かったよ… 伝えておくよ…」

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Kami-Robo
対戦カード決定

というワケで、対戦カードは正式に決定し
マスコミ発表された。

カミロボプロレス30周年記念大会
メインイベント スペシャルタッグマッチ 時間無制限一本勝負

マドロネックサン VS バードマン 
マドロネックキング マドロネックファイター

その他、団体の垣根を越えて組まれた
全14試合の豪華対戦カードも同時に発表された。

さあ、いよいよ決戦。

バードマンが所属するマックスリーグは
この試合にバードマンを出す事をそう簡単には承諾しなかったはずだ。

マドロネックサンに関しても、
団体内で意見をまとめるのが難しかったはずだ。

それぞれに大会出場の交渉は難航しただろうが、
ま、作者である僕が「これで行こう!」と決めたのだ。

これで行こう。責任はオレが取るから。

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Kami-Robo
マドロネックファイター 会見

さて、場面は変わって、マスコミ発表から1ヶ月後。

大会前日に記者会見が開かれ、各選手が意気込みを語る。
まずはマドロネックファイター。

えー、まずは大会を開催するにあたって尽力いただいた関係者、並びに
大会の趣旨に賛同いただき参戦を了承いただいた各団体の選手、
関係者の皆さんに厚く御礼申し上げます。

30周年記念大会という事で、
全14試合、お祭り的な試合も多数企画いたしましたが、
単なるお祭り騒ぎや懐かしマッチだけでは終わらない、
各団体にとって大きなリスクを伴う危険な試合も多数企画しました。

私個人としましては、1試合限定の現役復帰ということで…
えー、カミロボプロレス創始者として、自分が信じる使命を果たすため
批判や嘲笑、罵声のすべてを一身に受ける覚悟で
今回決断いたしました。

今回、復帰するにあたって、
心身共にとことん追い込んで仕上げてまいりました。

自分自身は、この試合でブッ壊れても問題ありません。むしろ本望です。

この1試合のために高めてきたものが
他の選手に劣っているとは全く思わないですし、
組む選手、戦う選手共に、少しでも気の弛みが見えた場合は
敵味方関係なくブッ潰す覚悟でリングに上がらせていただきます

よろしくお願いいたします」

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